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東京高等裁判所 昭和52年(ラ)683号 決定 1977年11月11日

抗告人 野口信吉

主文

本件抗告を棄却する。

理由

抗告人は原決定を取り消しの上相当の裁判を求め、抗告理由は別紙のとおりであるが、その要旨は、本件競落許可決定の対象土地(以下「本件土地」という。)上には、別件として競売の対象とされた建物(以下「別件建物」という。)があり、これと一括競売に付するか、または少なくとも同一期日に競売を実施するのが相当であるのに、これを各競売期日を異にして個別競売に付したため、本件土地が不当に低廉な価額で競落される結果となった違法があるというのである。

本件と別件のように、所有者を異にする土地とその地上建物がそれぞれ別個に別異の債務者のため抵当権の目的物とされ(ただし債権者は同一)、各抵当権の実行として各別に競売の申立がなされ、これに基づき各別に競売開始決定がなされて各別に競売手続が進行している場合においては、両者につき一個の競売開始決定に基づいて一個の競売手続が進められている場合と異なり、両者を一括して競売に付する余地はなく、仮に両事件において競売期日を同一に定めても、競売そのものは各別に実施せざるをえず、これを一括競売に付することはできないのである。もっとも、二個の競売手続として開始された競売事件を併合して一個の競売手続とした場合には一括競売に付する余地を生ずるが、しかしそもそも競売手続においてこのような手続の併合を認める明文の規定はなく、これが許されるかどうか疑問があるのみならず、仮にこれが許されるとしても、かかる手続の併合を相当とするのは極めて例外的な場合に限られるものというべく、上記のような事実関係に照らすと、競売裁判所が本件と別件を併合する措置をとらなかったとしても、これを違法とすることはできない。それ故、本件において原裁判所が本件土地と別件建物とを一括競売に付さなかったことには、なんらの違法はない。

次に、二個の不動産につき各別に競売が申し立てられ、各競売手続が進行している場合には、競売期日は当然それぞれの手続ごとに指定されるのであり、たとえ右不動産相互の間に土地とその地上建物というような牽連関係があっても、各競売期日を同一にしなければならないわけのものではない。抗告人の上記主張は、右の場合各競売期日を同一に指定すれば、同一人が両物件について適正な価格による競買申出をするようになり、事実上一括競売に付したのと同様の効果を挙げられるから、競売裁判所としては、適正な価格による競売を可能ならしめるためにはこのような措置をとるべきであるというにあると推測されるが、競売期日を同一にするかしないかによって抗告人の主張するような効果上の差異が生ずるとは考えられず、右の場合に別異の競売期日を指定したことをもって、競売裁判所が競売期日の指定における裁量を誤った違法があるとすることはできない。のみならず、記録によると、本件土地の評価額は昭和四九年五月三一日現在で金九九七万三、〇〇〇円と評価され、三回にわたる競売期日に競買申出がなく、最低競売価額が逐次低減され、四回目の競売期日に最低競売価額を金七二七万円に減額し競売に付したところ右最低競売価額と同額の競買申出があり、その価額で本件競落許可決定がされたことが認められ、抗告人主張の右競落価額が時価の四分の一にすぎないとの事実はこれを認めることのできる証拠がない。右競落価額は右事実によると相当であるというのを妨げず、本件土地と地上建物の競売期日を同一にしなかったことが右競落価額に不当な影響を及ぼしたものとは認められない。それ故、この点でも原決定になんらの違法はない。

その他職権で記録を精査しても原決定を取り消すべき違法は見当らない。

よって、本件抗告は失当として棄却を免れないので、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 中村治朗 裁判官 石川義夫 髙木積夫)

<以下省略>

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